展示を終えて
こんばんは、藤原です。
(私事ではありますが)東京ビエンナーレでの展示を終えて、9月23日に第三子を出産しました。これから元気に「長男とおててつないで、抱っこ紐に三男、ベビーカーに次男」という出で立ちで新ダンジョンに繰り出せるよう、もう1か月程は休養に努めたい…と思います。
が、
ここで一度、記憶が新しい内に活動を整理しておこうと思います。
◆制作の動機◆
20代の頃、私は都会を複雑だと感じることはあっても、不便だと感じたことはなかった。むしろ便利で楽しく、通勤ラッシュの人混みすら愉快に感じていた。30歳で出産し、子どもと一緒に外出するようになってからも「しんどさの原因は自ら招いたアクシデントによるもの」と思っていた。しかし2人目の出産(2019.5)で「子ども2人を連れて外出する」ようになり、これは「社会問題」なのだと認識する——長男の好奇心と次男の食欲が私の体力を削り、快適はおろか、安全に外出することが容易ではなくなった。そんな状況下で東京ビエンナーレ(以下TB)の開催を知り、私は「行きたい」という気持ちと「しんどい」という気持ちが同時に浮かんだのだった。
ソーシャルダイブの募集(2019.7)に、作家として「やりたい」という欲も動いた。突如行けなくなった(と感じる)場所のせいで、外出に対し絶望もあったが、神秘性にも似た興味や執着が沸いていた。そこで大衆が往来する東京をモデル地域に、子連れでは移動が困難な場所を他者の目と共にリサーチし、乳幼児育児当事者へアンケートや取材を行うことにした。
画像:ソーシャルダイブ二次審査提出資料
◆活動開始から公開まで◆
TBへの出展が決まり(2019.11)、関連地域の視察、行政への協力願い、対面インタビュー(工夫・持ち物・服装について)、アンケート制作を開始。制作委員会を立ち上げ、助成金申請など制作準備に邁進する——が、日本にもコロナが上陸(2020.1)。予定では春頃、展示会場近郊で生活をしている当事者のドキュメンタリーを制作する計画であったが、企画のイメージ動画の制作に変更(2020.2)。宣言下はリモートで「外出自粛中に感じる子連れ外出の必要性」についての取材や、展示会場の準備を進めていた。しかし、TBの延期が決定する。
画像:マスクの使用や外出について思うことがあり、本展示では未公開となった「企画のイメージ動画」。子連れ外出をする際の心境を横スクロール(時に弾幕)で打ち込んだ。
コロナによって外出に対する基本意識が大きく変わってしまう…と感じつつ、それでも年内の収束を疑っていなかった。ところが、冬になっても収束の兆しはなく、計画にあったGPSを使用した調査「乳幼児育児当事者で編成されたパーティによる探索イベント」の実行が危ういと判断。代案として、実際にベビーカーを使用してもらいながら、調査員が展示会場周囲300m内の道路状況をデータ化した(2021.2)。そして、直接アンケートを配布・回収することが困難な状況が続いていたので、東京都+近郊で生活する当事者に対するWEB アンケートを同時期に実施した。回答者1109(男性442・女性667)名の中から、更にリモートでインタビューを行った(2021.3)。
◆TBでの展示内容◆
産後の生活や子どもの教育に無関心なライフステージの人々、アーカイブでタイトルしか目にしない人々(未来)にこの問題を提起するには、出オチともいえるこのタイトルが重要だった。この問題は非当事者には興味が持ちづらく、興味のある当事者は展示会場に来ることが難しい(そもそも外出しにくい)状況にあるという点から、TBに集う過半数の人々には響きにくい題材だと想定した上で、本作で一番大切なのは瞬発力だと感じていたからだ。
※ 展示会場の様子についてはこちら
また、本来の「子連れ外出の困難さ」が「コロナ渦による外出の困難さ」と混同されないよう《①子連れでは移動が困難(物理的/心理的)な道が存在している。》《②子連れではたどり着けない場所が、①の組み合わせにより発生する。》《③子連れ外出への不安から、外出を避ける保護者が存在する⇒親子共に「楽しい外出」の経験が得られないまま育児が終了する場合がある。》という問題を、企画から制作まで一貫して取り組んだ。
タイトルに対するキービジュアルはたかくらかずきに相談し、外出時にストレスの要因となる問題(凸凹や傾斜など)を示すアイコンを制作。会場展示に加えWEBによる展開も必要だと感じ、新里碧、有賀三夏を仲間に加え、撮影(※親子に同行しTBを楽しむ様子を撮影するイベントを計画していた)として赤木遥、映像作品を林伸裕、各コンテンツの英訳を和泉崇司が担当した。
※ 制作委員会《子連れでクエスト》についてはこちら
画像:子連れ外出の「無理ゲー」さを体験するゲームを制作。悪路は勿論、赤子が泣いたり、ウンチをしても保護者のHPは削られるぞ‼ 来場者に実際に体験していただいた。
画像:神田明神の近くで夫と写真資料の撮影していた際、道路の清掃をしていた方が「上に(階段の先に)行きたいのか?」と、エレベーターまで案内してくださった。本企画で活動していると、各所で思いがけない手助けをされることが多々あった。
◆制作の総括と今後の展望◆
もとより一連の企画が、子連れでも移動しやすく、子どもが芸術や文化に早期から触れることができる社会を作ることに貢献できることを期待していた。実践を通し、この調査方法やアプローチが、他の地域や問題に置き換え可能であると感じている。誰もがこの活動を転用できるよう、現在(2021.9)は「無理ゲーの攻略本」として作品に関する分析本を制作している。
撮影:赤木遥
最後に。制作に向き合うことで、この問題に対する視点は絵画制作の中で私が見つめてきたコントロールが効かない部分/此岸と彼岸/確実に存在するのに「見えない」物事などに対する関心との親和性に気がついた。また「子連れではたどり着けない場所」の可視化や、乳幼児育児当事者の外出に対する心境や環境のデータに夢中になれたのは、私自身が一当事者であったからだ。この作品は今だからできた。外出(社会との結びつき)の重要性を、見慣れぬ景色が教えてくれたように感じる。
(文責・藤原佳恵/2021年9月)
調査報告書はこちらから。
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